こんなブラック企業もう辞める!の前に。労基&無料労働相談「活用術」

Published / by mimijiro

働いている人なら、おそらく一度くらいは「労働基準監督署」という組織の名前は聞いたことがあると思います。
そう。「労基(使用例:〜が入る、〜に訴える、等)」です。

人事・労務部門の方は就業規則や労働関係書類の届け出窓口として馴染みが深い労基署。
労働者個人のみみじろーにとっては「凄まじいブラック企業に勤めている人が、退職覚悟で”労働相談(=告発)”に駆け込むところ」というイメージ。ちょっと怖くて縁遠い場所に感じていたのです。

今回は、労基署と労働相談についてのお話です。

以前、退職後の職場とのトラブルをきっかけに「総合労働相談コーナーを利用してみました」をという記事を書きました。

公的な労働相談窓口を活用するメリットは、「無料で専門家に相談できる」「場合によっては職場に介入してもらえる」などが挙げられると思います。

労基署以外にも多くの公的な窓口があり「ちょっと聞いてみたいだけ」→「私の残業代払ってよ!」→「通報します!このブラック職場を何とかしてください!」と、さまざまなレベルで相談ができるのです。

ブラック企業を「通報」する手段も色々。証拠品のバッグを抱えて決死の覚悟で労基の門を叩かなくても、通勤途中のスマホから、あるいはおうちのPCから、労基署の管轄省庁である厚生労働省に「この会社ブラックです!」と情報提供できてしまいます。

長時間の残業で倒れる前に、勢い余って退職届を叩きつける前に、一息ついてまず相談。

公的な労働相談の目的別活用方法と、労基署等に通報する方法をご紹介します。


1. はたらく人の相談窓口はわかりにくい!

労働基準監督署のパンフレットによると、労働基準行政の組織は

「厚生労働省」>「都道府県労働局」>「労働基準監督署」という位置づけです。
労働基準監督署は厚生労働省の「第一線機関」と書かれています。直接住民から相談を受ける最前線の窓口ということですね。

労働基準監督署が受ける相談は基本的に「労働基準法」に関わる案件です。立ち入り調査し労働基準法上の違法性が認められれば、職場の運営が適正になるよう指導し、悪質な場合は捜査し送検できる(司法警察事務)権限を持っているのです。

その一方で、パワハラやセクハラ、職場のいじめ等のように労働基準法の範疇を超えた案件については、精神疾患等で労災申請でもしない限り対応できません。

そのため、色々な労働相談の窓口が設置されています。
法律によって対応する機関が異なるので複雑になっていますが、ざっくり整理すると以下のような構造になりそうです。

「厚生労働省」>「都道府県労働局」(共通)
 >「労働基準監督署」(主に労基法違反に関する相談)
 >「総合労働相談コーナー」(労働関係全般の相談)
 >「雇用環境・均等部(室)」 (各種ハラスメント、短時間労働者等に関する相談)
 >「ハローワーク」(職業紹介、雇用保険等に関する相談)

その他、厚生労働省委託事業の電話相談窓口として「労働条件相談ほっとライン」「ハローワーク求人ホットライン」などがあります。

う〜ん。結局、どこの窓口に行けばいいんだろう…。
そんなときは、とりあえず「総合労働相談コーナー」。厚生労働省の紹介文では、「あらゆる労働問題に関する相談を受け付けています」と書いてあります。相談だけではなく、適切な窓口の情報提供もできるそうです。


2. 目的別!相談窓口の選び方

(ケース1) この働き方って法的にどうなの?専門家のアドバイスがほしい!

  • 総合労働相談コーナー
    「労働問題全般に関するワンストップ相談窓口」。電話でも窓口でも相談可(平日昼間)。匿名でも大丈夫なので、「働き方でちょっと疑問がある」という時にも気軽に相談できます。
    窓口は都道府県労働局と各労基署に設置されているため、労基法違反がある場合には労基の窓口を紹介されることもあるようです。まさにワンストップ。

  • 労働条件相談ほっとライン
    長時間労働や残業代の不払いなどの問題について、専門の相談員が法令などの情報提供や適切な窓口の紹介をします。こちらは電話相談のみ。平日夜間や土日につながるうえ、フリーダイヤル(携帯可)です。労働者には嬉しいですね。


(ケース2) 会社から不当な扱いを受けた!お願い誰か力を貸して!

賃金の不払いや、違法な長時間労働など、労働基準法に違反している場合は労基署が窓口になります。

ですが、労働問題はそれだけではありません。理不尽な降格、解雇、異動、減給など、個人的に会社から不利益な扱いを受けることもあるでしょう。この場合は「処分の妥当性」が問題になりますから、労基署の範疇を超えてしまいます。

大きな企業なら、「労働組合」や「社員相談窓口」などに相談することで解決につながるかもしれません。いきなり外部の機関に駆け込むよりも、内部で解決ができる方が労力も少なく済みます。

それでも解決しない、内部で相談したら上司とグルになってもみ消された、中小企業で労組がない等の場合には、公的な相談機関を活用し仲介してもらうことも手段のひとつです。一人の従業員の声より、第三者の声が加わったほうが事態が動く可能性が高まるかもしれません。

  • 「総合労働相談コーナー」
    頼れるワンストップサービスは、ここでも大活躍。個人と事業所の間のトラブルを解決するための「個別労働紛争解決システム」という仕組みを持っています。機能は主に以下の3つ。

    • 1.「総合労働相談コーナーで、相談者に対する情報提供」
    • 2.「労働局長による助言・指導」
      (労働局が紛争当事者(事業主など)に対して問題点を指摘し解決への助言をする)
    • 3.「紛争調整委員会によるあっせん」
      (中立な立場の専門家が、会社との話し合いを仲介する)」
      1→2→3の流れで進むので、まずは総合労働相談コーナーに相談するところから始めましょう。
  • 「雇用環境・均等部(室)」:こちらも「紛争解決援助制度」があります。仕組みは上記とよく似ています。(詳しく知りたい方はリンク先をご確認ください)
    取り扱う案件は、「男女の差別」「育休、介護休暇による差別」「パートタイム労働者への差別」に基づくトラブルです。

二つとも、対象は個人と会社間の”民事”のトラブルです。
「労働局長による助言・指導」と聞くと物々しいですが、あくまで「仲介」。法的な拘束力はありません。

極端なことを言えば会社側が「知らんぷり」しても構わないのです。(実際、勤めていた会社で社長が労働局からのお呼び出しをスルーする場面を何度も見ました)。

さらなる解決を望むなら、労働審判手続や訴訟などの手段はあります。

ですが心配なのは、その後も同じ会社で働き続ける場合。「会社にタテついた」と見られて居心地が悪くなりそうです。
泣き寝入りは悔しすぎる、絶対に自分の権利を勝ち取りたい!という気持ちが強いときに活用するといいかもしれませんね。


(ケース3) 通報します!このブラック職場を何とかしてください!

社則そのものが労働基準法を逸脱している、上司の「徹夜で仕上げるぞ!」の一声で今日も帰れない…等々。

「退職を決意する前に、なんとか労働条件を改善したい」という気持ちがある方は、以下の窓口から通報することができます。

  • 労働基準監督署
    残業代が支払われないなどの具体的な事案があり、対応(立ち入り調査や指導)を希望する場合はできるだけ窓口に行きましょう。
    法令違反を証明する証拠(たとえば不払い賃金の場合は、タイムカードのコピーや給与明細、給与規定、給与振込口座の通帳など)を持っていくと良いそうです。警察が証拠を集めながら捜査をするのと近いイメージなのですね。

  • ハローワーク求人ホットライン
    ハローワークの紹介で就職後、求人票と条件が違う場合に利用できます(例:求人票よりも給与が低い、正社員と書いてあったのに非正規だったなど)。
    電話をすると最初に「企業への是正指導や労働基準監督署への情報提供を希望しますか?」と聞かれます。事実確認し、違反があれば労働基準監督署に報告して是正指導につなげるようです。違反かどうかわからないから確認したいという”問い合わせ”については、(求人の)紹介を受けたハローワークに相談しましょう。

  • 労働基準関係情報メール窓口
    労働基準監督署の管轄省庁である厚生労働省に直接メールで事業所を通報する窓口です。

本窓口では、労働基準法などの違反が疑われる事業場の情報をメールでお寄せいただくことができます。
(中略)
お寄せいただいた情報は、関係する労働基準監督署・都道府県労働局において、立入調査対象の選定に活用するなど、業務の参考とさせていただきます。

こちらは具体的な事案を解決するのではなく、ひとまず会社の実情を通報しておくという窓口のようです。

もちろん通報したところですぐに労基署が動くとは限りません。けれど、色々な人から通報が来るような会社に対しては、必然的に調査の優先度が上がると思われます。メール通報なら社内に協力者を作りやすいかもしれませんね。

通報の仕方は、サイト内の「情報提供のポイント」に詳しく書かれています。ポイントは3つ。

  1. 正確な事業所情報(事業所名、住所など)を書く
  2. どんな法令違反か、具体的な情報を書く
  3. (匿名で)情報提供があったことを事業所に知らせていいか意思表示をする。

同サイトの「送信フォーム」の項目に沿って記入すれば簡単です。(みみじろーのAndroidスマホでは送信フォームがセキュリティチェックに引っかかりますが、PCとiPhoneは問題なく開けました)


3. 労基の立ち入り調査が入ったら何か変わるのか?

世間で大きくニュースになった元電通社員の悲しい出来事。電通に対する裁判所の判決は「罰金50万円」。人が一人亡くなっても、刑罰としてはその程度です。企業にとっては痛くも痒くもない額に愕然としました。

ですから、もし「労基に訴えてやる!復讐だ!」と思っている方がいるとしたら、そのエネルギーは自分の生き方を選ぶためにとっておきましょう。
労働基準監督署は報復のためにあるわけではありません。職場の労働環境を正すために、指導や勧告をするのです。

じゃあ、指導や是正勧告を受けたら企業が変わるのか?

昔、みみじろーが勤務していた会社に労基の立ち入り調査が入ったことがありました。
人間関係がよく仕事にやりがいがある職場でしたが、残業は普通に月80時間超え。 なのに残業代申請の上限が月5時間までと決められていたのです。アウトですね。

立ち入り調査の結果、不払い残業代の支払い、衛生委員会の設置と開催、過重労働防止対策の実施など、いくつかの指導があったようです。

比較的良心的な会社と上司は慌てふためいて改善計画書を提出し、直近数ヶ月の不払い残業代も支払われました。

それ以降、「残業するときは事前申請」「20時には消灯して全員退勤」などいくつかのルールが定められました。
お客様あっての会社ですから仕事量は変わりません。達成不可能なルールだけが増えて正直辛かったです。

一時、早出は残業規制に引っかかりにくいということで早朝(6:00AM頃)出勤する人が増えたものの、無理のある生活リズムは続きません。そして残業規制ルールは浸透することなく、徐々にいつもの職場の風景に戻っていったのです。

通報した人は無念だったかもしれませんが、みみじろーは、会社の上層部が”人を雇用する以上守るべき法律がある”と理解する機会になったのがせめてもの救いだと思いました。


はたらく人の公的な相談窓口は、他にもたくさんあります。厚生労働省のサイトから、具体的な案件別に相談窓口を検索することができるのです。(詳しくはコチラから)

ただ、これまで書いてきた通り労基も労働相談も万能ではありません。

解決の道筋は人の数だけあるはずです。

悪質なブラック企業なら迷わず全力で逃げ出したほうが結果的にダメージが少ないでしょう。セミリタイアして組織にこだわらない生き方をするのだって、自分が幸せになる方法のひとつです。

自分が何に困っているのか、何を解消したいのかをじっくり整理すれば、どの相談窓口に行くか、あるいは全く違う方法を選ぶかが見えてくるのかもしれませんね。